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奈良地方裁判所 平成4年(ワ)222号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告柳浩相(以下「被告浩相」という。)は、原告に対し、金四八〇〇万円及びこれに対する平成元年二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告柳敏子(以下「被告敏子」という。)は、原告に対し、金一六〇〇万円及びこれに対する平成元年二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  1、2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、家庭用風呂蓋等のプラスチック製品の製造販売を業とする株式会社マルワ(以下「マルワ」という。)の代表取締役である。

被告浩相は、マルワと同種業務を営む栄和化工株式会社(以下「栄和化工」という。)の代表取締役である柳鉉次(以下「鉉次」という。)の実兄であり、同社の専務取締役である。被告敏子は、被告浩相の妻である。

2  原告は、昭和六三年四月三〇日ころ、栄和化工の委託により、同社の信用組合大阪興銀(同信用組合は、その後、信用組合関西興銀と商号変更したが、本件においては、以下「大阪興銀」という。)に対する信用組合取引によって生ずる現在及び将来負担する一切の債務について保証限度額の定めのない連帯保証(以下「本件連帯保証」という。)をするとともに、自己所有の別紙物件目録一ないし三記載の土地、建物(以下、まとめて「本件不動産」という。)に権利者を大阪興銀、債務者を栄和化工とする極度額一億五〇〇〇万円の根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)を設定した。

3  マルワは、栄和化工の資金繰りを援助する目的で総額一億二四〇〇万円の融通手形を振出、交付し、栄和化工は、これを大阪興銀において割引を受けていたところ、栄和化工が資金繰りに窮し、その決済をなし得なかったことから、原告は、平成元年二月二五日ころ、大阪興銀に対し、栄和化工に代わり、連帯保証人であり、物上保証人としての立場で金八〇〇〇万円を弁済した。

4  被告浩相、同敏子及び鉉次は、原告と同様、栄和化工が大阪興銀に現在及び将来負担する一切の債務について保証限度額の定めのない連帯保証人となっていた。

また、岩本健雨(以下「岩本」という。)も、大阪興銀に対し、同人作成名義の包括連帯根保証契約書を差し入れ、栄和化工の連帯保証人となっていた。

5  栄和化工は、平成元年九月五日、倒産した。

6  次の理由により、共同保証人間の負担割合は、原告五分の一、被告浩相五分の三、被告敏子五分の一になるというべきである。なお、原告による弁済が連帯保証人、物上保証人のいずれの立場であっても、求償を求めうることに変わりはない。

(一) 鉉次は、無資力で、かつ、行方不明であり、原告からの求償に応じうる状況にない。そして、被告浩相は、鉉次の実兄で、栄和化工の専務取締役であり、栄和化工のために自己所有不動産に極度額二億八〇〇〇万円の根抵当権を設定するなど、栄和化工と経済的な利害関係を密にしていた。したがって、鉉次の負担部分は被告浩相が負担すべきである。

(二) 前記の岩本作成名義の包括根保証約定書は、被告浩相が岩本の印鑑を冒用して偽造したものであり、岩本は前記連帯保証を行っていなかった(このことは、岩本、大阪興銀、被告浩相間の訴訟において、被告浩相が自認している。)。原告は、岩本も栄和化工の包括根保証人になっていたからこそ、自分も同様に包括根保証人となったものであり、被告浩相の前記犯罪行為により岩本に対し求償権の行使ができないのであるから、被告浩相が原告の経済的損失の責任を負うべきである。

したがって、被告浩相は、岩本の負担部分を当然負担すべきである。

7  (予備的主張)

(一) 原告は、本件八〇〇〇万円を弁済したことにより、右金額を限度として債権者である大阪興銀に代位する権利が生じた。

(二) 栄和化工の大阪興銀に対する債務については、原告のほかに被告浩相、被告敏子、鉉次及び岩本の各包括根保証人がいたのであるから、原告は、大阪興銀に代位して、被告浩相、被告敏子に対する権利を代位行使することができる。

(三) 被告浩相及び被告敏子が負担すべき割合は、前記6のとおりである。

8  よって、原告は、求償金として(予備的に弁済者の法定代位として)、被告浩相に対し弁済金八〇〇〇万円の五分の三に相当する金四八〇〇万の、被告敏子に対し同五分の一に相当する金一六〇〇万円の各支払いを求めるとともに、右各金員に対する原告の弁済日の後である平成元年二月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告が家庭用風呂蓋等のプラスチック製品の製造販売を業とするマルワの代表取締役であること、被告浩相がマルワと同種業務を営む栄和化工の代表取締役の銃次の実兄であり、被告敏子は被告浩相の妻であることは認めるが、被告浩相が栄和化工の専務取締役であったことは否認する。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち、栄和化工の資金繰りを援助する目的でマルワが総額一億二四〇〇万円の融通手形を栄和化工に振出、交付し、栄和化工がこれを大阪興銀において割引していたことは認めるが、原告が平成元年二月二五日ころ連帯保証人ないし物上保証人として金八〇〇〇万円を弁済したことは否認する。大阪興銀に対し、平成元年二月二七日に金八〇〇〇万円が支払われたが、これはマルワ代表者の原告が同社振出にかかる約束手形を大阪興銀から買い戻すために支払ったものである。

4  同4のうち、被告浩相、同敏子及び鉉次が、原告と同様、栄和化工が大阪興銀に現在及び将来負担する一切の債務について保証限度額の定めのない連帯保証人となっていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

5  同5の事実は認める。

6  同6本文は争う。

同6(一)のうち、鉉次が無資力であり、かつ、行方不明であることは認めるが、鉉次負担部分を被告浩相が負担すべきであることは争う。

同6(二)の事実は争う。

7(一)  同7(一)は否認する。前記のとおり、原告は、マルワ代表者の立場で、同社振出の約束手形を買い戻すために弁済したものである。

(二)  同7(二)のうち、栄和化工の大阪興銀に対する債務について、原告のほかに被告浩相、被告敏子及び鉉次の各包括根保証人がいたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)  同7(三)の事実は争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因2の事実(本件連帯保証及び本件根抵当権の設定の事実)及び同4の事実のうち、被告浩相、被告敏子及び鉉次が原告と同様の連帯保証人となっていたことは、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件連帯保証人及び物上保証人としての立場で大阪興銀に対して金八〇〇〇万円を弁済し、被告らに対して求償権を取得した等主張するので、以下、検討する。

1  請求原因1のうち、原告が家庭用風呂蓋等のプラスチック製品の製造販売を業とするマルワの代表取締役であること、被告浩相がマルワと同種業務を営む栄和化工の代表取締役の鉉次の実兄であり、被告敏子は被告浩相の妻であること、同3のうち、栄和化工の資金繰りを援助する目的でマルワが総額一億二四〇〇万円の融通手形を栄和化工に振出、交付し、栄和化工がこれを大阪興銀において割引をしていたこと並びに同5の事実(栄和化工の倒産)は、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一号証の1、2、4、第二ないし第八号証、第一〇号証の1ないし83、第一五号証の1、2、第二一ないし第二三号証、第二五号証、第二九号証(採用しない部分を除く。)、第三〇号証の1、2、第三二号証、乙第四、第五、第八、第九号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一一号証ないし第一三号証の各1、2(いずれも採用しない部分を除く。)、第三一号証、乙第六、第七号証、前記甲第一二号証の1及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第一号証、証人姜秀男の証言、原告及び被告浩相各本人尋問の結果(ただし、原告及び被告浩相各本人については、いずれも採用しない部分を除く。)、各調査嘱託の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和四〇年ころ、有限会社丸和工業所を設立し、プラスチック製品の製造、販売業を営んでいたが、昭和五七年七月、マルワを設立してその代表取締役となり、風呂蓋の製造、販売等の業を営むようになった。

原告は、昭和三八年ころ、鉉次と知り合い、昭和四三年ころから親しく付き合うようになっていたが、その関係で被告浩相とも面識を持ち、さらに、昭和五〇年ころ、原告の妹と被告浩相の末弟とが結婚したことから、いよいよ柳兄弟と親しく付き合うようになった。

(二)  鉉次は、昭和四六年ころ、原告から資金援助を受けて、風呂蓋等の製造業を始め、昭和五二年ころ、栄和化工を設立し、当初は岩本(鉉次の妻の兄弟)が名目上の代表取締役となっていたが、昭和五六年一二月ころ、鉉次が代表取締役に就任した。

一方、被告浩相は、昭和四四年ころから実弟の柳浩吉とともにライト化学工業所の商号でビニール加工業を営み、昭和四七年五月ころには、右事業をライト化学工業株式会社として法人化し、その取締役となっていたが、鉉次の個人事業時代からその資金の調達に関与するなどし、昭和五九年三月ころからは、栄和化工の総務、会計全般を担当するようになり、正式に役員にはなっていなかったものの、周囲からは「専務」と呼ばれていた。そして、被告浩相は、栄和化工の資金繰り等を中心になって行っていたばかりか、栄和化工の大阪興銀に対する一切の債務を連帯保証し、かつ、自己所有の土地、建物に権利者を大阪興銀、債務者を栄和化工とする根抵当権を設定して、栄和化工の実質上の金主という立場にあったが、昭和六二年五月ころからは、一時期、栄和化工の仕事から手を引いていた。

(三)  栄和化工は、昭和六二年ころ、マルワ、東伸化成株式会社(代表取締役木戸龍夫)(以下「東伸化成」という。)、第一化成株式会社(以下「第一化成」という。)と共同で洗面器、石鹸入れ等の浴用製品の開発、製造販売をする計画を立てたが、その事業資金はマルワ、東伸化成、第一化成が栄和化工に融通手形を振出、交付して賄うこととなり、こうして、栄和化工に対し、マルワ等から多額の融通手形が振り出されるようになった。

しかしながら、昭和六三年三月になると、栄和化工の資金繰りが行き詰まり、栄和化工が不渡りを出して倒産するだけでなく、マルワ、東伸化成等も連鎖倒産する恐れが生ずる事態に至った。こうしたことから、被告浩相は、同月末ころ、栄和化工に復帰し、鉉次、原告、前記木戸龍夫らと善後策を協議し、マルワ、東伸化成らが融通手形の振出を継続する形で資金援助を続行することとなった。そして、当時、マルワ等が栄和化工に振出、交付していた手形は総額で約二億円を超えていたところ(うちマルワ振出分は約一億五〇〇〇万円)、大阪興銀との協議で、(1)栄和化工が大阪興銀で割り引いている手形は、栄和化工が大阪興銀に対して満期が到来する手形の利息及び五〇万円を一か月ごとに支払う条件で書換えに応じてもらう(期日をジャンプさせる。)、(2)栄和化工が取引先等に交付した手形は、栄和化工が決済資金を用意できないことから、マルワ等が新たに手形を振り出し、これを栄和化工が大阪興銀で割り引いて、その金で決済していくことになった。その際、大阪興銀は、栄和化工に新たに手形割引をしていくには担保が不足しているとして担保の追加を求め、被告浩相は、栄和化工のために根抵当権を追加設定し、原告も、昭和六三年四月三〇日ころ、栄和化工のために本件連帯保証をするとともに、原告所有の本件不動産(ただし、別紙物件目録三記載の建物は原告の妻土田豊美〔マルワの取締役〕所有名義)について、権利者を大阪興銀、債務者を栄和化工とする極度額一億五〇〇〇万円の根抵当権(本件根抵当権)を設定した(登記は昭和六三年五月七日付)。

(四)  このようにして、栄和化工が大阪興銀から供与される信用の枠が拡大されたが、それに伴い、マルワが栄和化工に振出、交付し、栄和化工が大阪興銀で割り引く融通手形が昭和六三年四月ころから急増し、同年五月ころ以降はその残高が一億二〇〇〇万円を超えるに至った。

(五)  しかし、その後、マルワも業績が悪化したため、原告は、その資金調達の必要に迫られ、昭和六三年八月、訴外株式会社さがみ野の代表取締役である山口国弘に本件不動産を譲渡担保に供して借金をし、これをマルワの事業資金に充てるなどしていたが、業績がいよいよ悪化して倒産しそうな事態となったため、原告は、やむなく本件不動産を訴外株式会社さがみ野に売却処分し、その代金をマルワの債務の弁済や事業資金に充てることとした。

そして、そのためには本件根抵当権設定登記を抹消してもらう必要があることから、原告は、栄和化工、大阪興銀に対し、本件根抵当権設定登記の抹消を依頼したが、大阪興銀は、栄和化工が大阪興銀で割り引いているマルワ振出の約束手形額面合計一億二五五〇万円を買い戻すのでなければ根抵当権を外すことはできないと主張した。しかし、大阪興銀も、本件不動産を任意売却した場合の予想額が当初の評価額を下回っており、先順位にある担保権利者に対する弁済額を差し引けば、右手形金全額の回収は不可能であり、競売された場合は回収不能になるおそれがあると判断した結果、平成元年二月ころ、原告、大阪興銀、栄和化工との間で、前記手形のうち八〇〇〇万円分を買い戻し、残額四五五〇万円分の割引手形については、同年五月から毎月五〇万円ずつ減額して差し替えすることを条件に大阪興銀が本件根抵当権設定登記の抹消に同意することとなった。

こうして、原告は、訴外株式会社さがみ野との間で、本件不動産の売却代金三億四〇三九万円余の内金八〇〇〇万円を本件根抵当権抹消のために先に支払ってもらうこととし、平成元年二月二三日ころ、訴外株式会社東海銀行阿倍野橋支店に、原告、山口国弘、被告浩相、大阪興銀担当者の姜秀男らが集まり、その席で、原告が株式会社さがみ野から受領した金八〇〇〇万円の訴外株式会社東海銀行振出の小切手を大阪興銀に交付し、それと引換えに本件根抵当権設定登記の抹消登記手続に必要な書類の交付を受けた(なお、本件根抵当権設定登記は、同年三月七日付で抹消された。)。そして、大阪興銀からマルワが栄和化工に振出、交付し、大阪興銀で割り引かれていた融通手形のうち、同年三月一四日に一六枚、額面合計七六〇〇万円分が大阪興銀から栄和化工に返還され、残りの四〇〇万円は、同年五月八日、額面合計九五〇万円(二枚)の期日前買戻し分の内金に充当され、こうして大阪興銀で割り引かれているマルワ振出の融通手形の残りは約四四〇〇万円分となった(なお、同年五月八日当時、右にもかかわらず、栄和化工が大阪興銀で割り引いている手形は合計約一億四〇〇〇万円にのぼっていた。)。

一方、被告浩相は、栄和化工が右の金八〇〇〇万円に年六パーセントの割合による約七年分の利息を加えた合計約一億円を返済する旨約し、振出人栄和化工、支払期日毎月一日(最終支払期日平成八年五月一日)、額面各金一一六万八六八五円(ただし、最終支払期日分は金七六万八五六八円)、受取人白地の約束手形約八五通を原告に交付し、原告は、それによって自己出捐分を回収することとした。

なお、右八〇〇〇万円の支払いにもかかわらず、原告の包括根保証人(連帯保証人)としての地位に何らの変更はなかった。

(六)  栄和化工は、平成元年九月五日、二回目の不渡りを出し、二億円以上の負債を残して倒産したが、そのうち、大阪興銀で割り引かれたマルワ振出の約束手形は五通(額面合計四四〇〇万円)あり、マルワと大阪興銀の話し合いにより、マルワが大阪興銀に対し、毎月五〇万円ずつ支払って支払期日到来の手形の期日を延期し、手形の書換えに応じてもらうこととし、マルワは、平成元年一〇月から平成二年八月まで(合計一一回)実行した。しかし、平成二年九月ころ、被告浩相は、マルワ振出の融通手形の買戻債務を含む栄和化工の債務約一億二〇〇〇万円を弁済し、大阪興銀の手元にあったマルワ振出の手形の交付を受け、マルワが新たに差し入れた書換手形はマルワに返還された。その後、被告浩相は、マルワに対し、右交付を受けた約束手形に基づき、手形金の支払いを求める訴訟を提起したが、平成四年一〇月二一日、東京高等裁判所は、右請求を棄却した。

一方、栄和化工から振出、交付を受けた前記約束手形については、その一部をマルワが取立てに回していたが、一、二通の支払いを受けただけで栄和化工が倒産してしまったため、支払期日が平成元年一〇月一日以降の約束手形八三通(額面合計金九六六〇万〇七三八円)の支払いが受けられないこととなった。

3  右のとおり、本件八〇〇〇万円は、連帯保証人と物上保証人の立場を兼有していた原告によって弁済されたものであるが、右認定事実を総合し、特に、

(一)  栄和化工は、大阪興銀に対し、割引手形について、自ら又は手形の主債務者(振出人等)の信用悪化を示す事情(支払停止、破産等)が生じた場合は当然に買戻義務を負うものであるが、原告が八〇〇〇万円を弁済した当時は栄和化工ないしマルワについて具体的な信用悪化等の事情は存せず、買戻債務は生じていなかったこと、

(二)  しかるに、原告は、自己所有物件を売却処分するため、本件根抵当権設定登記を抹消してもらう必要があり、大阪興銀との交渉の結果、大阪興銀で割り引いたマルワ振出の融通手形八〇〇〇万円分を期日前に栄和化工が買い戻す条件で本件根抵当権設定登記の抹消に応じてもらえることになり、その抹消のために本件八〇〇〇万円を支払ったものであること、

(三)  こうしたことから、原告による前記出捐にもかかわらず、原告の包括根保証人としての地位に変更はなかったこと、

(四)  栄和化工は、原告による出捐の見返りとして、八〇〇〇万円に利息を付した約一億円分の同社振出、受取人白地の約束手形を原告に交付し、原告も、その支払いがなされればそれで了としていたこと

を考慮すると、本件において、原告が経済的な出捐者であるといえても、その支払いが本件連帯保証債務の履行としてなされたものと認めることはできないというべきである。

この点に関し、平成五年九月一〇日付調査嘱託(回答日同年一〇月四日)の結果中に、大阪興銀は本件八〇〇〇万円を栄和化工の債務の弁済として原告から受領した旨の回答部分があり、姜秀男証言中に「担当者としては、連帯保証人であり、物上保証人の立場にある原告から大阪興銀が弁済を受けたもので、このうちどちらの立場からの弁済であったなどと特定するのは困難である。」などという供述部分がある。しかしながら、右調査嘱託の結果中には、本件八〇〇〇万円は栄和化工の割引手形の買戻し代金として受領した旨の回答部分があり、これに前記指摘の事実を併せ考慮すると、前記回答部分や供述部分をもって右判断を覆すには足りないというべきである。

したがって、原告が連帯保証人として弁済したことを前提とする共同保証人に対する求償請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

4  次に、右のとおり、本件においては、原告による出捐は実質的には物上保証人による代位弁済と認めることができるが、原告は、そのような場合でも共同保証人に対して求償権を有する旨主張する。しかしながら、物上保証人の出捐によって債務者が免責されたときは、物上保証人は、保証債務の規定に従って債務者に対する求償権を取得するが(民法三五一条、三七二条)、保証人に対する求償を認める規定は存せず、かつ、共同保証人間の求償権について定めた民法四六五条を準用ないしは類推適用することは困難であるから、物上保証人に保証人に対する固有の求償権を認めることはできないと考えられる。したがって、このことを前提とする原告の主張は採用できない。

また、物上保証人は、債務者に対する求償権を確保するために、求償権の範囲において債権者がその債権について有する担保権その他の権利を取得することとされ(民法五〇〇条、五〇一条本文)、右担保権には人的担保も含まれるが、本件のような包括根保証は、基本たる取引関係から生じ、増減変動する多くの債務を全体として保証するものであるから、基本たる取引関係が継続している間は、物上保証人が代位弁済をしたとしても、債権者に代位しえないものと解すべきである。したがって、法定代位によって栄和化工の被告浩相らに対する保証債務履行請求権が移転したことを前提とする原告の主張も、採用することはできない。

三  結論

よって、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 二本松利忠)

別紙 物件目録〈省略〉

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